お土産は「おみあげ」「おみやげ」どっち?両方使われている理由

おみあげ

「お土産」、あなたはどう読んでいますか?多くの人が「おみやげ」と読んでいると思いますが、実は一部の地域では「おみあげ」と読む人もいます。耳にしたことがある方もいるかもしれません。

もしかすると、「おみあげ」はただの読み間違いだと思っていませんか?しかし、その読み方には意外な歴史と意味が隠されているのです。

この記事では、「おみやげ」と「おみあげ」、2つの読み方の違いとその由来について詳しくご紹介します。さらに、「お土産」という言葉の背景にある日本文化や地域ごとの方言、そして古代の語源にまでさかのぼりながら、「お土産」という言葉の奥深さを掘り下げていきます。

普段何気なく使っている「お土産」という言葉――その読み方一つとっても、日本語の豊かさと歴史が詰まっているのです。

お土産の読み方の正解は「おみやげ」

お土産屋さんでの買い物

まず結論から言うと、「お土産」の正しい読み方は「おみやげ」です。これは国語辞典をはじめ、教育現場やメディア、新聞、テレビなどでも共通して使われている標準的な読み方です。

例えば、『広辞苑』や『明鏡国語辞典』など、主要な辞典ではすべて「おみやげ」と記載されています。文部科学省の学習指導要領においても、「土産(みやげ)」は「贈り物」「旅先で買った品」などとして「みやげ」と読むよう指導されています。

「や」は音便化による変化

「おみやげ」の「や」は、「家(いえ)」→「や」や、「屋(や)」と同じく、音便(おんびん)と呼ばれる日本語特有の音の変化のひとつです。たとえば、「おおいえ(大家)」が「おおや(大家)」となるように、複合語や語の接続において音が滑らかに発音されるよう変化する現象です。

つまり、「みやけ(宮家)」や「みやしろ(神社)」のように、「みや」は「神聖なもの」「尊いもの」を表す言葉の一部として自然に使われてきました。その中で「みやげ」=「土(地)の産物」「旅先からの贈り物」という意味合いに発展したのです。

漢字は「土産」でも「みやげ」

「お土産」は「おみやげ」と読みますが、ここで面白いのは、「土産(どさん)」という読み方も存在するということ。「土産」は中国語や漢語において「地元の産物」「土地の恵み」という意味で「どさん」と読みます。日本語ではこの漢字を当て字として「みやげ」と読み替えた、いわば和製漢語的な表現なのです。

お土産を「おみあげ」と読む人もいる

八つ橋

「お土産」は現代では「おみやげ」と読むのが一般的ですが、一部の地域や世代では「おみあげ」と発音されることもあります。これは誤読ではなく、方言や古語の影響を受けた表現です。

特に関西地方では年配の方を中心に「おみあげ」と呼ばれることがあり、中国・東北地方では「おみやげ」と「おみあげ」が混在。さらに九州地方では「おみげ」とさらに省略された形も存在します。

このような読み方の違いは、地域に根付いた言葉の文化や歴史を反映しており、音の簡略化や古い読みの名残ともいえます。また「おみあげ」には「見上げる=尊ぶ」の意味が込められていたともされ、品物をありがたく受け取る気持ちが表れているとも考えられます。

つまり、「おみあげ」はその土地に生きる言葉の温かさや人々の思いを映す、文化の一端なのです。

「おみあげ」の語源が「見上げ」に由来?

お土産屋さん

「おみあげ」という読み方には、単なる地域の方言や発音の違い以上に、深い意味が込められているとする説があります。そのひとつが、「おみあげ」の語源が“見上げる”という言葉に由来している、という興味深い説です。

「見上げるようにありがたく受け取る」気持ち

一説によれば、「おみあげ」は「見上げる(みあげる)」という動詞に、「御(お)」がついた表現とされます。つまり、遠くから届けられた貴重な品物を、ありがたく“見上げる”ような気持ちで受け取るという、日本人らしい感謝と尊敬の感情が言葉になっているのです。

この考え方は、特に昔の旅や交易の時代背景と深く関わっています。

  • 当時の人々にとって、遠方からの品物は非常に貴重で、手に入る機会も限られていました。
  • そうした品物をいただくとき、人々は自然と「ありがたいもの」「尊ぶべきもの」として、敬意を持って受け取っていたのです。
  • まさに“見上げる”ように、大切に受け取っていたという心の表れが、「みあげ」という言葉になったのかもしれません。

「みあげる」+「御(お)」=「おみあげ」

このように、「見上げる(みあげる)」という動詞に、「御(お)」をつけて丁寧に表現したものが「おみあげ」。それが転じて、「贈り物」や「持ち帰る品」の意味で使われるようになった、という流れです。

この説は、言葉の成り立ちを感情や行動に結びつけて考える点で非常に興味深く、また日本語特有の「心が言葉に宿る」という文化性を感じさせます。

単なる読み間違いではない「おみあげ」

現代では「おみやげ」が主流となっていますが、「おみあげ」という言い方には、こうした心のこもった由来が隠されている可能性があります。

贈り物とは、単に物を渡すだけではなく、そこに込められた気持ちや意味が重要です。「見上げるような尊い気持ち」が、今も「お土産」という言葉の奥底に生きている――そう考えると、「おみあげ」という言葉にもまた、美しい日本語の一面が見えてきます。

「みやけ(屯倉)」から「おみあげ」へ?

お土産

「お土産(おみやげ/おみあげ)」という言葉のルーツをさらにさかのぼっていくと、古代日本に存在した「みやけ(屯倉)」という言葉にたどり着くという説があります。この「みやけ」は、現在の「お土産」という概念に繋がる重要なキーワードです。

「屯倉(みやけ)」とは何か?

「屯倉(みやけ)」とは、古代の日本、特に5~7世紀頃の律令国家成立前の時代において、天皇家(大和朝廷)が直轄支配していた土地やその産物の保管施設を指します。

  • 「屯」は「たむろする」「集まる」を意味し、
  • 「倉」は「くら」=物を保管する場所のこと。
    つまり、「屯倉」とは天皇家が管理する物資の集積所だったわけです。

この「みやけ」に集められていたのは、各地の特産品や貢物。
言い換えれば、その土地ならではの品=“土産”のルーツが「みやけ」だったとも考えられます。

「みやけ」が「贈り物」の意味に

やがて「みやけ」は、「貢ぎ物」や「贈り物」といった意味でも使われるようになり、それが「みやげ(御土産)」の語に変化したとされています。

ここで注目したいのが、古い文献の中に「みやけ」ではなく「みあげ」と表記されている例が存在する点です。これは単なる表記の違いではなく、当時の日本語の音の変化や、方言的な揺らぎによるものと考えられます。

「みあげ」と「みやげ」が交錯していた?

古代日本語では、「や」と「あ」が交互に使われることがしばしばありました。発音がまだ固定されておらず、地域ごと、時代ごとに揺れていたのです。そのため、以下のような変遷があったと推察されます:

  1. 「みやけ(屯倉)」=天皇家への貢ぎ物・特産物
  2. → 「みあげ」「みやげ」=贈り物や持ち帰り品を意味する言葉へ
  3. → 現代の「お土産(おみやげ/おみあげ)」に発展

つまり、「おみあげ」という読み方は、古代語の名残や音の変化が重なって自然に生まれた形ともいえるのです。決して誤読などではなく、言語の歴史そのものが作り出したもう一つの「正しさ」なのかもしれません。

各地域の方言で「おみあげ」と発音することも

祖父母

「お土産」の読み方には地域ごとの特色があり、「おみやげ」が標準とされる一方で、「おみあげ」や「おみげ」といった発音も各地で根強く使われています。

たとえば、九州地方では「あげ」「やげ」がさらに省略され「おみげ」となることがあり、日常的に使われています。中国地方では「おみやげ」と「おみあげ」が混在し、世代によって使い分けが見られます。関西地方では、特に京都や大阪の年配層に「おみあげ」が多く、上方言葉のリズム感や言葉の伝統が残っていることが背景にあります。一方で、関東地方ではテレビや教育の影響により「おみやげ」が圧倒的で、「おみあげ」はほとんど使われませんが、他地域出身者が話す場合に稀に耳にすることもあります。東北地方でも「おみやげ」が主流ですが、高齢層を中心に「おみあげ」が使われており、古語や方言の保存がなされている地域ならではの特徴です。

このように、「お土産」の読み方には単なる発音の違い以上に、その地域の歴史や文化、言葉に対する感覚が反映されており、まさに言葉が生きている証といえるでしょう。

お土産の起源はお伊勢参りにあり

お伊勢参り

「お土産」という文化が広く日本に根付いた背景には、江戸時代に盛んだった“お伊勢参り”の存在があります。この風習は、現代の「お土産文化」に大きな影響を与えました。そして、そこにはもうひとつ重要な要素――「宮笥(みやけ)」という言葉の存在も見逃せません。

お伊勢参りとお土産の関係

江戸時代、伊勢神宮への参拝は“生涯に一度は行きたい”と言われるほどの一大イベントでした。庶民でも比較的自由に旅が許された「お伊勢参り」は、遠方からの長旅でありながらも、信仰と娯楽が混じった一大観光行事だったのです。

そして、その旅の記念として、あるいは留守番をしていた家族やご近所への感謝の気持ちを込めて持ち帰られた品物が、現在の「お土産」の原型になりました。

  • 伊勢名物の饅頭や御守り、地元の名産品などがよく選ばれた
  • 「旅の証」「思い出の品」としての意味も強く持っていた
  • お土産は、持ち帰ることで“旅の一部”を分かち合う行為でもあった

「宮笥(みやけ)」とは?

この「お伊勢参り」と並んで語られるのが、「宮笥(みやけ)」という言葉です。「宮笥」とは、神社や寺院で神様への供物を入れるために使われた器や箱のこと。特に伊勢神宮のような格式高い場所では、神聖な物を納める道具として大切に扱われていました。

  • 「宮」は神聖な場所(=神社)を指し、
  • 「笥(け)」は器、容器を意味する古語。
    つまり、「宮笥」は神聖な贈り物を納めるための器だったのです。

宮笥(みやけ)が象徴する「尊い贈り物」が「お土産」に

この「宮笥(みやけ)」は、単なる入れ物ではなく、“尊いものを納める”という象徴的な意味合いを持っていました。そのため、「お土産」もまた、相手に贈るに値する大切な品=“神様に捧げるような気持ち”で選ばれた贈り物という考え方が浸透していったのです。

お伊勢参りでいただいた御札や品物を「宮笥」に納め、持ち帰って家族に見せたり、仏壇に供えたりすることもあったと言われています。こうした行動が、「お土産」を単なる旅の記念品以上のもの――信仰や感謝を込めた贈り物へと昇華させていったのです。

まとめ

お土産コーナー

「お土産」の正しい読み方は「おみやげ」が一般的ですが、「おみあげ」という読み方にも、歴史的・文化的な背景があることがわかりました。見上げるようにありがたく受け取る気持ちから生まれた「おみあげ」という言葉は、単なる方言や読み間違いではなく、贈り物に込められた敬意や感謝の心を表しています。

また、古代の「みやけ(屯倉)」や神聖な器である「宮笥」といった語源をたどることで、「お土産」が単なる旅の記念品以上の意味を持っていたことも見えてきました。言葉の成り立ちを知ることで、日常の「おみやげ」に込められた想いをより深く味わえるかもしれません。旅の終わりに手渡す小さな贈り物に、今も昔も変わらない“こころ”が宿っているのです。