「やむを得ず」と「やむなく」の違い【例文60】ビジネスでの使い方

日本語には、意味が似ているようで実は異なる表現がたくさんあります。その中でも、「やむを得ず」と「やむなく」は、特に混同しやすい言葉の一つです。どちらも「仕方なく〜する」という意味合いで使われるため、違いを意識せずに使っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、この2つの言葉には微妙なニュアンスの違いがあり、使い方を誤ると違和感のある文章になってしまうこともあります。特にビジネスシーンでは、言葉選びひとつで相手に与える印象が変わるため、正確な使い分けが求められます。
本記事では、「やむを得ず」と「やむなく」の意味の違いから、具体的な使い分け方、実用的な例文、さらには類語や英語での表現まで、徹底的に解説していきます。
60の例文を通じて、両者の違いを完全にマスターし、表現力をアップさせましょう!
目次
「やむを得ず」と「やむなく」の違い

「やむを得ず」と「やむなく」はどちらも「仕方なく」という意味合いを持ちますが、微妙なニュアンスや使われる場面に違いがあります。以下の比較表でその違いを整理しましょう。
項目 | やむを得ず | やむなく |
---|---|---|
意味 | 避けられない事情により仕方なく行動する | 他に選択肢がなく仕方なく行動する |
ニュアンスの違い | 客観的、形式的で少し硬め | 主観的、感情が入ることもあり柔らかい |
使用シーン | 書き言葉、ビジネス、フォーマルな文章など | 日常会話、軽めのビジネス、話し言葉など |
文法的分類 | 慣用句的な表現 | 副詞的な用法 |
使用頻度 | ビジネス・公式文書でよく使われる | 会話や文章など広範囲で使われる |
例(簡単に) | やむを得ず会議を欠席した | やむなく予定を変更した |
- 文体の違い
「やむを得ず」は特にフォーマルな文章や文書の中でよく見られ、書き言葉に向いています。
「やむなく」は話し言葉に適しており、より柔らかく、会話の中で自然に使えます。
「やむを得ず」の意味

「やむを得ず」は、「どうしても避けられない事情があり、仕方なくある行動を取ること」を意味します。ここでの「やむ」は、「止む(やむ)」つまり「やめる・中止する」の古語で、「得ず」は「得ることができない」という意味です。つまり、「やめることができない=仕方がない」となります。
主なポイント:
- 避けられない理由がある:自分の意思ではなく、外的な事情でやむを得ず行動する。
- やや硬い表現:口語よりも文語、特にビジネス文書や公式な場面で使われやすい。
- 客観性がある:自分の感情よりも、状況や周囲の事情に重点が置かれている。
たとえば、会議への欠席を伝える際に「やむを得ず欠席いたします」と書くと、「欠席は本意ではないが、どうしても避けられない事情がある」というニュアンスを伝えることができます。
「やむなく」の意味

「やむなく」は、「他に選択肢がなく、仕方なくその行動を選ぶこと」を意味します。こちらも「やむ」は「止む(やむ)」=やめるという意味ですが、「なく」は助詞ではなく、副詞的に用いられています。「やむを得ず」と比べると、やや話し言葉に近い印象があります。
主なポイント:
- 他に選択肢がない:自分の判断として「それしか手がない」と感じた状況。
- 口語的な印象:ビジネスでも使えますが、「やむを得ず」より少し柔らかい印象。
- やや主観的:自分の感情や判断がより強く反映される場合がある。
例えば、「電車が止まっていたため、やむなくタクシーで向かった」と言えば、「ほかの手段がなかったために、仕方なくそうした」という状況が伝わります。
ビジネスでの「やむを得ず」と「やむなく」の使い方

ビジネスシーンでは、言葉選びによって相手に与える印象が大きく変わります。「やむを得ず」と「やむなく」もその一例です。どちらも「仕方ない状況で行動した」ことを伝える表現ですが、使い方や文脈によって適切さが異なります。
①「やむを得ず」のビジネスでの使い方
「やむを得ず」は、フォーマルで丁寧な印象を持ち、ビジネス文書や公式なメールにおいて非常によく使われます。
使用例:
- 例1:欠席連絡 本日の会議につきましては、急用によりやむを得ず欠席させていただきます。
- 例2:納期の遅延報告 原材料の納入遅延により、やむを得ず納期を延長させていただく運びとなりました。
- 例3:価格改定の案内 昨今の原材料費高騰に伴い、やむを得ず価格の見直しを行うこととなりました。
ポイント:
- 説明責任を果たす姿勢を示す
- 誠実さや信頼感を印象づける効果がある
②「やむなく」のビジネスでの使い方
「やむなく」は少し柔らかい印象があるため、ビジネスでも使えますが、相手との距離感や文体によって使いどころを見極める必要があります。
使用例:
- 例1:上司への口頭報告 交通トラブルのため、やむなく予定を変更しました。
- 例2:プロジェクトの調整報告 人員の都合により、やむなく担当者を変更しました。
ポイント:
- 社内向けや非公式な文脈で自然
- 少しフランクだが、丁寧語と併用すれば問題ない
ビジネス文書での使い分けの目安
シーン | 適切な表現 |
---|---|
社外への正式文書・お知らせ | やむを得ず |
社内での口頭報告や気軽なやりとり | やむなく |
丁寧さが求められる謝罪や説明 | やむを得ず |
会話ベースのミーティング発言 | やむなく |
「やむを得ず」の使い方【例文20】

「やむを得ず」は、フォーマルな場面や丁寧に事情を説明したいときに使われる表現です。以下の例文を通して、状況に応じた自然な使い方をマスターしましょう。
▼ 会話での使用例
- 電車が止まったため、やむを得ずタクシーで向かいました。
- 子どもが熱を出し、やむを得ず仕事を休むことにしました。
- 天気が悪かったので、やむを得ず屋内での開催となりました。
- 体調が優れず、やむを得ず病院に行きました。
- 渋滞に巻き込まれてしまい、やむを得ず遅刻しました。
- 予約が取れなかったため、やむを得ず別の店に行きました。
- やむを得ず電話での対応となってしまいましたが、ご理解ください。
▼ ビジネスでの使用例
- 業務の都合により、やむを得ず納期を延長させていただきます。
- 人員の都合により、やむを得ず担当者を変更いたします。
- トラブルの発生により、やむを得ず再調整をお願いすることとなりました。
- 本日は私用により、やむを得ず早退させていただきます。
- 出張のスケジュール変更に伴い、やむを得ず会議の時間を変更いたしました。
- 経費削減の一環として、やむを得ず一部のサービスを終了いたします。
- クライアントの意向により、やむを得ず企画内容を修正いたしました。
▼ 日常的な使用例
- 雨が降ってきたので、やむを得ず洗濯物を取り込んだ。
- 食材が足りず、やむを得ず冷凍食品を使った。
- 忘れ物に気づき、やむを得ず取りに戻った。
- 駐車場が満車で、やむを得ず別の場所に停めた。
- 財布を忘れ、やむを得ず電子マネーで支払った。
- 店が休業していたため、やむを得ずコンビニで済ませた。
「やむを得ず」は、何かを断ったり謝罪したりする際に、自分の行動を正当化するための丁寧な理由づけとして非常に便利な表現です。
「やむなく」の使い方【例文20】

「やむなく」は、「仕方なく」「他に選択肢がなく」という状況を、やや柔らかく、主観的に伝える表現です。日常会話やビジネスの軽いやり取りに適しています。
▼ 会話での使用例
- チケットが取れなかったので、やむなく諦めました。
- 子どもの体調が悪く、やむなく外出を中止しました。
- 雨が強くなったので、やむなく傘を買いました。
- 予定していたレストランが満席で、やむなく他の店に行った。
- 宿題が終わらず、やむなく友達との約束をキャンセルした。
- 予算オーバーで、やむなく購入を見送りました。
- 終電に間に合わず、やむなくタクシーを使いました。
▼ ビジネスでの使用例
- 進行中のトラブル対応のため、やむなくミーティングを延期しました。
- 担当者の都合により、やむなく別の担当に引き継ぎました。
- 業務都合で、やむなく一部の業務を外注しました。
- 納期短縮の要望があり、やむなく工程を変更しました。
- システム障害により、やむなく手作業での処理となりました。
- 参加人数が少なく、やむなくイベントを中止しました。
- クライアントの都合で、やむなく提案内容を変更しました。
▼ 日常的な使用例
- 朝寝坊してしまい、やむなく朝食を抜いた。
- 近所が騒がしく、やむなく耳栓をつけた。
- 予定が重なって、やむなく片方をキャンセルした。
- 電話に出られず、やむなくメッセージで返信した。
- 予想外の来客があり、やむなく部屋を片付けた。
- 料理が失敗して、やむなく出前を頼んだ。
「やむなく」は、「しょうがなく」「仕方なく」のような日常的表現の一歩上をいく、ややフォーマル寄りの自然な言い回しとして使えます。言い訳や説明に使うと、感情も少し伝えやすくなります。
間違えやすい使い方【例文20+解説】

1.
✕ やむなく欠席いたします。
〇 やむを得ず欠席いたします。
解説: 「いたします」は丁寧語でフォーマル。フォーマルな文脈では「やむを得ず」が適切。
2.
✕ やむを得ず行動を見直しました。
〇 やむなく行動を見直しました。
解説: 「見直す」は自発的な判断。主観的な判断には「やむなく」の方が自然。
3.
✕ やむを得ず、やむなく外出した。
〇 やむなく外出した。
解説: 「やむを得ず」と「やむなく」は意味がほぼ同じ。重複して使うと不自然になる。
4.
✕ やむなく提出申し上げます。
〇 やむを得ず提出申し上げます。
解説: 「申し上げます」は最敬語。文体を整えるためには「やむを得ず」が合う。
5.
✕ やむを得ず参加しません。
〇 やむなく参加を見送りました。
解説: カジュアルな否定形「しません」には、「やむを得ず」は少し堅すぎて違和感がある。
6.
✕ やむなくご報告いたします。
〇 やむを得ずご報告いたします。
解説: ビジネスでの報告はフォーマル。形式的な「やむを得ず」の方が丁寧に響く。
7.
✕ やむを得ずタクシーで帰った。
〇 やむなくタクシーで帰った。
解説: 日常の選択的行動(交通手段など)では、「やむなく」が自然な言い回し。
8.
✕ やむなく価格改定となりました。
〇 やむを得ず価格改定となりました。
解説: 価格改定はビジネス的な、ややフォーマルな話題。「やむを得ず」がふさわしい。
9.
✕ やむを得ず残業することにしました。
〇 やむなく残業することにしました。
解説: 「することにしました」は主観的な決定。主観には「やむなく」が合う。
10.
✕ やむなく中止申し上げます。
〇 やむを得ず中止申し上げます。
解説: 「申し上げます」は敬語。「やむを得ず」で格式を整えるべき。
11.
✕ やむを得ず我慢しました。
〇 やむなく我慢しました。
解説: 「我慢する」は感情的行動であり、主観的な「やむなく」がしっくりくる。
12.
✕ やむなく失礼いたします。
〇 やむを得ず失礼いたします。
解説: 挨拶や礼儀表現は形式性が高いため、「やむを得ず」がより適切。
13.
✕ やむを得ず仕方なく参加しました。
〇 やむを得ず参加しました。
解説: 「やむを得ず」と「仕方なく」は同じ意味。重複表現でくどくなる。
14.
✕ やむなくの判断です。
〇 やむを得ずの判断です。
解説: 「判断」は客観的・ビジネス的な語。よりフォーマルな「やむを得ず」が望ましい。
15.
✕ やむを得ず早退しちゃった。
〇 やむなく早退しちゃった。
解説: 「しちゃった」は口語的で軽い表現。「やむを得ず」は堅すぎてミスマッチ。
16.
✕ やむなくご報告差し上げます。
〇 やむを得ずご報告差し上げます。
解説: 「差し上げます」は最敬語。「やむを得ず」で文体をそろえるのが基本。
17.
✕ やむなくお見送りとなります。
〇 やむを得ずお見送りとなります。
解説: 商品や計画の「お見送り」は業務上の丁寧表現。フォーマルな「やむを得ず」が適切。
18.
✕ やむを得ずやむなく遅刻しました。
〇 やむなく遅刻しました。
解説: 意味の重複で読みにくい。どちらか一方で十分に意味は伝わる。
19.
✕ やむなく出社することを決断しました。
〇 やむなく出社することを決断しました。
解説: これは誤用ではないが、「決断」という自発的判断には「やむなく」がより自然。
20.
✕ やむを得ずメールで失礼します。
〇 やむを得ずメールで失礼いたします。
解説: フォーマルな文面にするなら、「いたします」で丁寧さを保つ。
「やむを得ず」の類語(言い換え)・英語
「やむを得ず」はフォーマルで丁寧な表現ですが、同じような意味を持つ言い換え表現も多く存在します。ここでは、日本語の類語と英語表現をそれぞれ紹介し、使いやすい例文も併せてご案内します。
▼ 類語・言い換え表現
類語表現 | 意味 | 使用例文 |
---|---|---|
仕方なく | どうしようもなく | 仕方なく会議を欠席した。 |
やむなし | やむを得ないと同じ(やや古風) | やむなしと判断して撤退を決めた。 |
不可避(ふかひ) | 避けることができない | 不可避な判断としてコストを削減した。 |
否応なく | 強制的に、選択の余地なく | 否応なく変更を受け入れるしかなかった。 |
やるしかない | 他に選択肢がない | 今回はやるしかないと思った。 |
▼ 英語での表現
英語表現 | 意味 | 使用例文 |
---|---|---|
reluctantly | しぶしぶ、いやいやながら | He reluctantly agreed to cancel the trip. |
unavoidably | 避けられない事情で | The meeting was unavoidably postponed. |
out of necessity | 必要に迫られて | She acted out of necessity. |
with no other choice | 他に選択肢がなく | We had to cancel with no other choice. |
inevitably | 必然的に、避けられず | The decision was inevitably made. |
「やむなく」の類語(言い換え)・英語
▼ 類語・言い換え表現
類語表現 | 意味 | 使用例文 |
---|---|---|
仕方なく | 自分の意思ではなく、避けられず | 仕方なく計画を変更した。 |
どうしても | 他に選択肢がない、強い制約下で | どうしても無理だったので断った。 |
なし崩し的に | いつの間にか仕方なく | なし崩し的に契約を解消することになった。 |
否応なく | 意思とは関係なく | 否応なく参加させられた。 |
不本意ながら | 本当は望まないが仕方なく | 不本意ながら退職を決意した。 |
▼ 英語での表現
英語表現 | 意味・ニュアンス | 使用例文 |
---|---|---|
reluctantly | しぶしぶ、気乗りせずに | She reluctantly agreed to attend the event. |
unwillingly | いやいや、望まずに | He unwillingly accepted the decision. |
with no choice | 他に選択肢がなく | I had to quit with no choice. |
out of necessity | 必要に迫られて | They moved out of necessity. |
had no option but to | ~するしかなかった | We had no option but to cancel the trip. |
よくある質問(FAQ)

Q1. 「やむを得ず」と「やむを得ない」はどう違うの?
A:意味は基本的に同じですが、文中での使い方が異なります。
- やむを得ず → 副詞的に使い、動作を修飾する
例:やむを得ず出席を見送りました。 - やむを得ない → 形容詞的に使い、状況を評価する
例:この対応はやむを得ない判断です。
つまり、「やむを得ず」は動作にかかる、「やむを得ない」は判断・状態にかかるのがポイントです。
Q2. 「やむなく中止」と「やむを得ず中止」はどちらが正しい?
A:どちらも文法的には正しいですが、文体やトーンが異なります。
- やむなく中止 → 少し柔らかく、日常的・口語的
- やむを得ず中止 → フォーマルで書き言葉向き。ビジネス文書や公的発表に適している。
例えば:
- 日常会話:やむなく中止になったらしいよ。
- 公的発表:やむを得ず中止とさせていただきます。
Q3. ビジネスメールでは「やむを得ず」と「やむなく」どちらが望ましい?
A:「やむを得ず」が一般的に適しています。
ビジネスメールや公式な報告書などでは、形式性や客観性が求められるため、「やむを得ず」の方が信頼感があり丁寧です。
Q4. 「やむなく」の使用は失礼にあたりますか?
A:いいえ、状況に合っていれば失礼ではありません。
ただし、あくまで口語・やや主観的な表現であるため、相手や状況によっては「軽い」と感じられることがあります。フォーマルな場面では「やむを得ず」に置き換えるのが無難です。
まとめ
「やむを得ず」と「やむなく」は、どちらも「避けられない事情で仕方なく行動する」という意味を持ちますが、使い方には微妙な違いがあります。
「やむを得ず」は、より客観的でフォーマルな表現として、ビジネス文書や公式な場面で好まれます。例えば、メールや報告書、謝罪文などで使えば、礼儀正しく誠実な印象を与えることができます。
一方で、「やむなく」は主観的でややカジュアルな表現です。会話や日常文、柔らかいトーンの文章に自然に馴染みます。自分の判断や気持ちを反映したいときに使いやすく、親しみやすい印象もあります。
この記事では、両者の違いを明確にし、使い分けのポイントや60の例文を通して、実際の文脈でどう活用すべきかを詳しく解説しました。
正しく使い分けることで、文章や話し言葉に説得力と信頼感が加わり、コミュニケーションの質が大きく向上します。今後のビジネスメールや日常会話にぜひ活かしてみてください。